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会員問題を総意に 企業団協総会、早期の陳情活動へ マイクリップに追加

 全国水道企業団協議会は23、24日、福岡市の西鉄グランドホテルで第68回総会を開催。27題の会員提出問題を総会の総意として決議し、できるだけ早期に国土強靱化・広域化等の実現に向けた陳情を関係当局に行うことを決めた。次回総会の開催地担当は、北海道地区の十勝中部広域水道企業団。視察では、実用化では日本初の浸透圧発電開始に向けて設備の建設を進める福岡地区水道企業団の海水淡水化センター、浄水場再編に伴う整備工事が進む福岡市水道局の乙金浄水場と話題の2現場を視察した。

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  • 名古屋企業長
  • 吉田会長
  • 松原審議官

 開催地を代表し、福岡地区水道企業団の名古屋泰之企業長が「福岡都市圏は約260万人の人口を有する一方で大きな河川がなく、筑後川から全長約25kmの導水施設にて水をいただき、都市圏が使用する約3分の1に及ぶ一日最大約26万8000㎥の水道用水を供給している」とあいさつで事業を紹介。

 主催者を代表し、吉田延雄会長(阪神水道企業団企業長)が「今年度からの行政移管を受け、国土交通省の災害対応、環境省の水質管理といったノウハウの活用に期待している。また、われわれは事業環境の変化に対応し、安定経営を目指し取り組んでいかなければならない」とあいさつ。

 続いて来賓が登壇。

 国土交通省の松原英憲大臣官房審議官(上下水道)は「今年4月から移管を受けて水道の管理行政を行うこととなったが、これまで行政を進められてきた厚生労働省から課題をしっかりと引き継ぎ、われわれの強みを生かした機能強化の取組みの推進に努める。また、より各事業体の身近な組織として、各地方整備局に新たに水道係が設置された。今後、国と事業体が一層連携し、課題解決に向けて取り組んでいければ」とあいさつ。

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  • 柳田室長
  • 石田課長補佐
  • 縣対策長
  • 青木理事長

 環境省の柳田貴広水道水質・衛生管理室長(土居健太郎水・大気環境局長の祝辞を代読)は「行政移管を受け、環境省が長年にわたって蓄積してきた水質に関する専門的知見を生かし、水道水源から蛇口までの一体的なリスク管理に努める。PFOS・PFOAについても食品安全委員会による食品健康影響評価の結果を踏まえた検討および情報収集等に努める」とあいさつ。

 総務省の石田渉自治財政局公営企業経営室課長補佐(大沢博局長の祝辞を代読)は「総務省では水道事業の持続的な経営確保のため、事業体の経営戦略の改定や経営改善等を支援するアドバイザーの派遣等を行っている。また、脱炭素化のための地方単独事業への地方財政措置も講じており、ぜひ活用を」とあいさつ。

 福岡県県土整備部の縣博夫水資源対策長(服部誠太郎知事の祝辞を代読)は「施設の老朽化・耐震化への対応や災害発生時の早急な復旧、渇水や水質管理への対応など、水道事業を取り巻く課題が山積しており、その解決のためには豊富な経営資源とノウハウを有する全国の企業団のマンパワーが非常に重要と考える。本県としても、皆さまと連携して災害対応能力の強化等に努める」とあいさつ。

 日水協の青木秀幸理事長は「能登半島地震で特に被害が甚大だった6市町のうち七尾市・志賀町・穴水町・能登町での応援活動は終了し、輪島市・珠洲市も今月末には応援活動を終えて本復旧・復興のフェーズに移行する見込みとなった。改めて、現場で応急給水・復旧にご尽力いただいた全国の事業体の皆さまに心より感謝申し上げる。本協会でも、水道使用者へのホームページやX等による情報発信の強化に取り組んでおり、さらに昨年度は初の試みとして『情報発信スキルアップセミナー』を開催した。これは、広報においてより効果的に情報を伝えるための実践的なスキルを学ぶもので、今年度も継続して開催する予定だ」とあいさつした。

 令和5年度会務報告によると、昨年度の企業長・事務局長会議は静岡県大井川広域水道企業団を開催地事務局として静岡市で開催。▽急激な物価上昇への対応▽公務員離れに伴う新規採用職員の募集▽非常用発電設備の燃料管理▽工事の一時中止に伴う増加費用分の負担▽水需要予測における新型コロナウイルス感染拡大の影響▽構造物の耐震診断の実施状況および診断結果への対応▽災害時における現金の引出し、支払いと運営上最低限必要な資金の想定▽水道料金における大口使用者に対する割引制度▽内面ライニング材の剥離による通水障害▽水道管路の更新事業費の縮減▽随意契約による点検・修繕に係る見積額の妥当性――の11題について懇談した。今年度の開催地事務局は神奈川県内広域水道企業団。

 事務委員会では、正会員への実態調査における調査項目に6項目の提案があり、うち、広域水道でのDXの取組み状況等、省エネルギー・再生可能エネルギー設備の導入と財源――の2項目を専門委員会に付託することを決定。その後、実態調査の集計結果が正会員に送付された。

 昨年度は、正会員に広島県水道広域連合企業団、特別会員に日水協の前総務部長の大貫三子男氏と前調査部長の玉野井晃氏、賛助会員に配水用ポリエチレンパイプシステム協会が入会。正会員83団体、特別会員38人、賛助会員5団体となった。

 役員改選では、吉田会長ら全役員を再選した。

 会員提出問題は27題。今回、訴求力をより高める観点から、会員が各問題を提出するに当たり、「現状」「課題」「要望」をまとめ、関連する参考資料を添付することとした。

 挙げられた各課題は水道事業者のみの経営努力で執行できることには限界があるため、提案された会員提出問題を全て今総会の総意とし、関係国会議員・関係官庁に陳情していくことを決議した。

 会員提出問題は次の通り。

 《北海道地区》▽ダム湖内の排砂事業を対象とする国庫補助事業等▽水道利水を重視した多目的ダムの運用

 《東北地区》▽災害で被災した水道施設の撤去費用に係る財政支援▽水道施設・管路の再構築事業に対する財政支援▽水利権制度の柔軟な運用▽水道事業における広域連携に係る財政支援の拡充および要件緩和▽生活基盤施設耐震化等交付金における対象施設

 《関東地区》▽水道施設等耐震化事業の補助制度等の拡充▽水道施設整備に関する財政支援の拡充(管更生工法)▽施設の耐震化等に伴う施設規模の見直し▽水源地域における関係機関の連携と財源措置▽生活基盤施設耐震化等交付金に係る要望▽水利権制度の運用

 《中部地区》▽紫外線処理設備の導入に係る国庫補助制度の要件緩和▽水道スマートメーター普及事業に対する財政支援体制等の確立▽地下水利用専用水道の揚水規制に係る法整備▽水道施設の再構築事業等に対する新たな財政支援の体制の確立▽水道事業に対する財政支援の拡充および要件緩和等

 《関西地区》▽国庫補助の対象施設の拡充▽新たな水質課題に対応した施設更新等の補助メニュー拡充▽生活基盤施設耐震化等交付金制度(水道事業運営基盤強化推進事業)の充実▽特定社会基盤事業者が行う水道の耐災害性強化に係る事業への補助▽補助金における管路区分▽補助金における特定簡易水道▽児童手当

 《中国四国地区》▽水道施設の老朽・経年化対策に関する新たな財政措置制度の創設

 《九州地区》▽水利権制度の柔軟な運用

 次回の総会の開催地担当は、十勝中部広域水道企業団に決定。米沢則寿企業長(帯広市長)がビデオメッセージで「今年度と同様に、課題の解決に向けて相互の連携を確認する機会となるよう、準備を進めていく」と歓迎のあいさつをした。

 会長表彰受賞者は、功労賞と特別賞をあわせて26名。前福岡地区水道企業団企業長の中村貴久氏が「水道という大事なインフラが国交省・環境省に移管する節目の年に表彰をいただき、大変光栄だ」と代表あいさつに立った。

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  • 今年度全国初の〝ミニ水道展〟
  • 浸透取水の説明を受ける参加者
  • まみずピアの中核となる高圧RO膜ユニット

 会場の隣では、日本水道工業団体連合会による展示会が催され、16者が出展。開会に際し宮﨑正信専務理事が「技術を説明できる機会が減ってきているとの声もある中、水道事業体の方々に最新の水道技術をご理解いただく絶好の機会だと考えている」とあいさつした。

 出展者は次の通り。

 ▽NTTテレコン▽積水化学工業▽管総研▽大成機工▽クボタ建設▽東亜グラウト工業▽コスモ工機▽日本ステンレスタンク工業会▽シーカ・ジャパン▽配水用ポリエチレンパイプシステム協会▽シンク・エンジニアリング▽日立製作所▽水研▽Fracta Japan▽水道機工▽前澤工業

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 24日の視察箇所は、福岡地区水道企業団の海水淡水化センター(愛称=まみずピア)および福岡市水道局の乙金浄水場。

 うち、まみずピアでは、8.3メガパスカルという高圧を海水にかけ高圧RO膜を通して真水を得て、その後、動力回収装置(ペルトン水車)でエネルギーの一部を回収する工程を見た。浸透取水装置にて海底下約3mから緩速で良質な海水を取水しており、これを生かして、通水当初は設置していた前処理のUF膜の省略とコスト削減につなげている。波の作用で海底表面が洗浄されているため、砂が目詰まりしたことがないという。実用化において日本初となる浸透発電施設の説明も受けた。来年度稼働予定で、年間発電量は88万kW時の見込み。


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