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鳥栖市、衛星漏調 成果着実に 東亜G・アステラ、疑い箇所を効率的に検知 マイクリップに追加

 鳥栖市上下水道局は昨年度、衛星による漏水検知技術を初めて導入した。業務委託に当たっては、漏水疑い箇所(=POI)のある路線の現地調査を併せて発注。年度内におよそ半分のPOIを調査したところ、そのうち54%で実際の漏水が見つかった。今年度も残りの現地調査と修繕を進め、有収率の向上を図る。

 鳥栖市の管路総延長は約430km。そのすべてで音聴調査を行うのは現実的でなく、従来は5年に1度、対象を重要路線に絞って調査していた。

 重要路線は浄水場から市内中心部までの主要幹線など、口径の大きな配水幹線が中心となる。しかしそうした管路は主にダクタイル鋳鉄管で構成され、一般的に漏水しにくいこともあり、これまでの音調調査では漏水の発見に至っていなかった。一方、配水支管(老朽化した塩化ビニル管)や給水管の漏水は日常的に発生していたが、予算の都合もあり、やみくもに調査範囲を広げるわけにもいかなかった。

 効率的な漏水調査対象の選定方法を探す中、東亜グラウト工業から紹介されたのが「アステラ・リカバー」だった。イスラエルで生まれたこの技術は、人工衛星による観測データの解析によって「土壌と混ざった水道水」を検知し、半径100mの範囲をPOIとして判定する。

 局は先行事業体への聞き取りなどを行った後、昨年の夏に導入を決定。衛星探知の精度を検証するべく、POIの現地調査とセットでの業務委託とした。漏水を多く見つけるほど精度の良さが証明できるため、事業者が高いモチベーションを持って現地調査に臨むのではないか、という期待もあったという。10月にはアステラ国内代理店の東亜グラウト工業と契約を結んだ。

 現地調査はトキワ設備(本社=福岡市)とコスモリサーチ(同)が担当することになった。東亜グラウト工業としては「アステラはあくまで現地調査の範囲を絞り込むための技術、漏水の発見には音聴調査の能力こそ重要」と考え、パートナーの選定に当たっては過去のプロジェクトにおける実績に重きを置いた。トキワ設備はアステラの導入実証にも参加しており、その際に国内平均を大きく上回る発見率を達成したことが、東亜グラウト工業が現地調査を重視するきっかけになったという。

 ◇   ◇

 業務開始後に鳥栖市内全域を解析したところ、抽出されたPOIは175カ所に及び、延長103kmにわたる現地調査を行う必要が生じた。これは当初の想定よりも長く、年度内はできるところまで、残りは翌年度に回すこととし、1月から2月にかけて55kmの調査を行った。

 現地調査の結果、90カ所のPOIのうち46カ所が「漏水」、3カ所が「漏水疑い」と判定され、発見率は54.4%となった。東亜グラウト工業によると、アステラの開発元・ユーティリス社が示している発見率の目安は45%で、これを上回ったのは担当2社の丁寧な調査によるところが大きいとみられる。

 1カ所のPOIで複数の漏水が生じているケースもあることから、調査対象範囲における漏水は最終的に70カ所を数えた。延長1km当たり1.3カ所の漏水を発見した計算になる。また、70カ所のうち59カ所(84.3%)が地表からは確認できない地下漏水だった。

 内訳は配水管が9カ所、メーター1次側の給水管(引込み管)が35カ所、2次側の宅内給水管が22カ所、現地調査の実施前に見つかった漏水が4カ所。局はこのうち市管理部分の修繕を5月までに完了し、個人管理部分についても所有者に修繕を呼び掛けている。

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 鳥栖市上下水道局水道事業係・松隈亜紀氏の話

 現地調査をするからには漏水が見つかってほしいという気持ちもあり、市内全域から疑わしい範囲を絞り込める意義は大きい。

 本格的な検証は今年度の現地調査を終えてからになるが、ある程度の衛星探査の精度や、地下漏水を捕捉可能なことは確認できた。

 飲み水をつくり提供する立場として「漏水はもったいない」とずっと感じており、それを能動的な取組みで減らせたのはうれしいこと。貴重な水を無駄にしないため、今回の手法を定期的に続けるのも一つの選択肢だと思う。


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