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「最適化」技術横浜で試行 東亜グラウト工業、震災時断水戸数最小化へ マイクリップに追加

(左から)山口社長、山岡局長、カントーンCEO

 東亜グラウト工業は4月から、代理店契約を締結している米国のオプティマティクス社(OP社)が提供する二つのソフトウェアを横浜市に試行導入した。ソフトウェアは、管路更新計画を最適化する「アセットアドバンス」と、管網解析モデルを最適化する「オプティマイザー」。「震災発生時の断水戸数の最小化」を目的とする同市の管路耐震化計画に「オプティマイザー」を活用するアイデアは、同市職員が発案した。両ソフトウェアの併用は世界初となる。

 両ソフトウェアはいずれもOP社の主力ソフトウェアであり、「AI遺伝的アルゴリズム」を活用している。同アルゴリズムは、進化論的発想を模倣してコンピュータが最適解を探索する手法。「良い特徴を持った解」のみを残して「交配」「進化」させていくことで、世代を重ねるごとに、より優れた解を導き出す仕組みとなっている。機械学習を行うAIと比べ、同アルゴリズムで検討された組み合わせは全て内容を確認できるため、AIの判断過程が不明瞭になる「ブラックボックス」が生じない点が強み。

 「アセットアドバンス」は、管路更新計画におけるさまざまなリスクや問題を可視化し、数億通り以上の候補の中から最適な管路更新計画策定を支援するソフトウェア。従来は人の手で複数案しか比較できなかった候補に対し、数億以上の候補から最適な更新計画案を提供できる。同ソフトウェアは、昨年から福岡県久留米市で実施されている「衛星・AI技術による管路更新計画を最適化する」実証実験で導入されている。

 「オプティマイザー」は、水の供給(配水)や汚水・雨水の収集(排水)に関わるシステム全体を解析する管網解析モデルや流出解析モデルを最適化するソフトウェア。配管、ポンプ、貯水施設、制御装置といった設備の種類やサイズの異なる数十万通りの組み合わせについて、「建設や運用にかかるコスト」「水の流れの効率(=水理性能)」「消費エネルギー量」「水質(汚れにくさ)」といった複数の評価項目をもとに比較・分析を行う。従来は人が何度も試しながら最適な設計を探す「試行錯誤型」が一般的だったが、同ソフトウェアが自動化することで、既存の水理モデルのより高度な活用が可能となった。

 「オプティマイザー」は、米国ネバダ州ラスベガス市や、英国のスコティッシュウォーター、サウスウェストウォーターなどで「漏水削減」や「省エネ」を目的とした導入事例がある。地震多発地域である米国ワシントン州ベルビュー市では、「費用対効果を最大化する耐震化計画の最適化」のために導入されている。横浜市でも、同ソフトウェアが「どの水道管から耐震化を施していけば、発災時の断水戸数をより低減できるか」を明確にし、管路耐震化計画が大幅に迅速化する効果が期待されている。

 同市では4月中旬から、市内の3配水ブロックで両ソフトウェアの試行を開始。今回の結果により、令和8年度末までには市内全域9300kmの管路に展開する計画としている。9月には中間報告を行う予定。

 同市への導入に際して5月16日には、同市水道局の山岡秀一局長、東亜グラウト工業の山口乃理夫代表取締役社長、OP社のジョシュア・カントーンCEOの3者が市庁舎で面会し、コメントを寄せた。

 山口社長は「OP社との連携により、AIを活用した全体最適の管路更新システムを構築できるということを今回、横浜市での実証で証明したい。この取組みは、災害への備えと、健全・持続的な都市経営を両立する画期的な取組み。全国で採用いただくための良いモデルケースに仕上げていきたい。われわれは横浜市が期待する効果をしっかり発現できるよう業務にまい進する」と意気込みを語った。

 カントーンCEOは「当社にとって戦略的な成長拠点である日本では、特に地震のリスクを抱えており、水道インフラの効率的かつ効果的な管理への需要は一層高まっている。東亜グラウト工業、横浜市と連携した取組みへの参画を通して、将来にわたって横浜市民の皆さまが水道への信頼を保ち続けられる持続可能な計画の最適化に貢献できることを心より楽しみにしている」と喜びを示した。

 山岡局長は「水道事業は、限られた財源の中で管路更新計画を立てなければならない。これらの技術によって、大地震が発生した際の断水戸数という被害率を定量的に示すことができれば、今後、これまで以上に効率的かつ効果的な更新計画を策定できるのではないか。水道施設は市民の財産。両社の協力をいただきながら最適な計画が立てられるよう、成果に結び付けていきたい」と期待をにじませた。


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