社説 コロナ禍経営環境の激変に注視 マイクリップに追加
「複合災害」への 危機感
コロナ禍の収束が未だ見通せない五里霧中にあって、水道関係者は相次ぐ課題を懸命に克服しつつ、新たな1月を終えた。
年末年始にかけて各地で発生した渇水、漏水事故、寒波の影響は、関係者はもとより多くの国民に注目されるところとなった。当該水道事業体では厳しい対応を迫られたものの、コロナ禍のもとで、水道のライフラインが止まることへの国民の危機感の大きさが現れた事象でもあった。
水道利用者にとっては、自然災害の有無にかかわらず、コロナ禍の断水そのものが「複合災害」となってしまう。水道の恩恵を利用者が強く感じている今こそ、為政者は安全な水を安定的に届ける使命に、改めて真摯に向き合うことが求められよう。
水道界においても新たな働き方が官民双方に定着し始め、今後を見通した対応に臨もうとした矢先、新型コロナウイルスの感染者が急増し、1月から11都府県は再び緊急事態宣言下に置かれている。都市部に限らず地方でも感染者の増加が実感されるようになり、連日伝えられる新規感染者の数に多くの人々の感情と行動が左右される悩ましい日々が続く。
緊急事態宣言の再発令から1カ月が経とうとしている現在、感染者の増加は一時的に山を越えたようにも思われるが、感染症のリスクがかつてないほど身近にある状況は変わらない。
水道関係者として第一に優先すべきは感染予防の徹底である。エッセンシャルサービスを担う者としての律した行動、感染時の影響を最小限にする努力が引き続き求められる。
予算編成の苦慮
国の令和3年度予算案が決まり、地方議会でも予算案の編成が各地で佳境を迎えている。コロナ禍の影響は、多くの水道事業体の予算担当者を悩ませたであろう。
コロナ禍以降の全国的な水道利用の傾向は「家庭用増、業務用減」で推移している。ベッドタウンなどを擁する家庭用への収入依存割合が高い一部の事業体では増収傾向となるが、多くの事業体では業務用途の減少による料金収入へのインパクトが大きくなっている。
昨年11月に東京都の次年度予算原案と位置付けられる主要事業計画書が全国の事業体に先んじて公表された。それによれば、暫定ながら令和3年度の水道事業の年間配水量を前年度の93.7%、給水収益を94.5%と見積もった。具体的な数値としては、減少配水量が1億220万㎥、給水収益の減収額が177億4400万円となり、経営へのインパクトが実感できよう。このうちコロナ禍に起因する減収額は約95億円を見込んでいる。
その中で、再び緊急事態宣言が発令され、延長の様相を呈する。業務用の契約件数が多い飲食業や宿泊施設では当然、水道利用の停滞を余儀なくされる。年度末にかけて減収幅が拡大する恐れは高く、これらの営みの衰退を招けば、中長期の水道利用にも影響を及ぼしていくことは避けられないだろう。
水道産業界の市場の大きな割合を占める大規模事業体をはじめ、多くの事業体が前例無き不透明な水需要動向の中で、次年度の予算編成に苦慮している。
止まらぬ経済停滞
厚労省が継続するコロナ禍における水道料金の支払猶予・減免状況の調査は、12月の調査で7回目を迎えた。社会的な関心事にもなった減免の集計総額は約547億円に達し、減免を行う459事業のうち36%に相当する167%の事業が水道会計を財源として充当した。減免の延長や追加措置もいくつかの都市で行われているが、多くは減免措置を終え、水道会計には再び減免できる余力は残っていない。
減免の実施が落ち着きつつある一方、猶予件数の増加は続き、調査の焦点はそちらに移りつつある。最新の猶予金額の集計総額は約27億円。調査を2カ月ごとに行う中で、10月に行った前回調査の集計総額から13.9%増加している。
猶予措置の特徴は、集計総額の7割を業務用途が占めていることだ。減免は自治体判断として行う市民に対する先回りの経済措置となるが、猶予の実態はコロナ禍による経済の困窮状況を示す。
経済全体にも不透明感が漂う。昨年末からの電力価格の高騰は対岸の火事ではすまない。日本卸電力取引所の電力の市場単価が従来の平均価格から最大で30倍にまで高騰した。国際的な天然ガス調達の停滞と国内の寒波が重なり、電力供給量が逼迫し、価格は今なお高水準が続く。水道事業の変動費の多くを占める動力費、水道資機材の製造原価にも影響を及ぼす恐れが今後あり得る。コロナ禍の影響に加え、産業の根幹となるエネルギー価格の不安定化は、各地域の経済を支える営みに対して致命的な打撃となりかねないのだ。
東日本大震災以降進められてきた新エネルギー政策は、国の脱炭素施策の推進とともに大きな転換点を迎えようとしている。
確かな基盤とは
コロナ禍における水道経営への影響は底を打っておらず、全容は見えていない。今からでもコロナ禍以降の社会の本質的な変化と、水道事業への影響の全体像を分析し続けなければならない。
くらし方、地域内の水需要と産業、さらにはエネルギー構造に至るまで、水道事業を取り巻く環境に大きな変化が間違いなく生じてくるであろう。
一昨年施行の改正水道法で規定された「水道の基盤強化」という方向性に水道界が一丸となって歩み出した中で、変化に揺らぐことのない確かな基盤を構築するため、水需要と社会動向との連動は常に意識しなければならない。現在の混迷する社会状況に、経営の基礎となる料金の見直しが難航している事業体も多々あると聞いている。
コロナ禍において再認識された水道の使命と役割をテコに、命を守るインフラを将来につないでいくための考察を深めなくてはならない。その結果に基づいた行動、水道の置かれている現状発信こそが今、問われている。