社説 原点回帰で課題解決の一歩を マイクリップに追加
日本水道協会の全国会議(第101回総会・水道研究発表会)が10月19日から3日間、名古屋市を舞台に対面式で開かれる。長引くコロナ禍の影響で、水道関係者が直接顔と顔を合わせての開催は3年ぶりとなる。
そもそも日本水道協会の始まりも、「上水試験方法統一のための協議会」を発展させたものだった。つまり、事業運営上の課題を前に実務者や有識者が集い、議論し、英知を絞って自ら解決策を見出すスタイルは、一世紀以上にわたり水道界が培ってきた伝統である。全国の関係者がいま一堂に会することは、改めて原点に回帰し、知識と知見、情報と交流の場がやっと再始動したと言える。今こそ、水道事業が抱える課題にオール日本で取り組んでほしい。そして、コロナ禍にあっても安全で衛生的な水を供給し続けてきた誇り高きエッセンシャルワーカーの地位向上の足掛かりとなる契機にしてほしい。
■課題は山積さて、水道は普及率も98%に達し、今や国民生活にとってなくてはならない重要なインフラの一つであるのは言うまでもない。しかし、近代水道創設から一世紀以上が経過し、施設や管路は老朽化が著しく進んでいる。人口減少は経営問題に影を落とし、これを解決するための広域・官民連携、人材育成や技術継承などの重要性が叫ばれるようになって久しい。
令和元年には水道法が改正され、昨年には最近の気候変動に対応すべく流域治水関連法も成立したが、気象災害の頻度は急増し、その規模も激甚化してきている。この2カ月で起こった台風被害に照らせば、豪雨・浸水、渇水も含めた一層の対策が求められることはもはや論を俟たない。つい最近も、「大都市で断水」というショッキングな出来事に直面した。恩恵を与えてくれつつも恐ろしい存在でもある「水」の特性について、あらためて気を引き締めたのではないだろうか。
■時代の分水嶺が目前に感染症対応能力の強化に向けた厚生労働省の組織見直しにより、水道整備・管理行政の全般を国土交通省に、うち水道水質基準の策定等を環境省に移管する方向性が打ち出された。方針どおりに令和6年度の移管となれば、昭和32年以来、実に67年ぶりのこととなる。これまで水道行政を担ってきた厚生労働省の組織見直しは、長引くコロナ禍による感染症対応能力強化が主眼ではあるが、それだけが理由ではない。先に述べた水道事業の経営基盤強化、老朽化や耐震化への対応、災害発生時における早急な復旧支援、渇水への対応等に対し、パフォーマンスの向上を図りつつ水道の安全・安心をより高めるという見地に立ったものだ。
水循環全体を捉えた強靱なインフラ整備が一層求められている今、水道行政の移管は、これから起ころうとする水行政改革の先駆けとなる可能性を大いに含んでいるとも言えよう。
■名古屋の地で知見を今年度の全国会議開催地となった名古屋は2000(平成12)年、他の大都市に先駆けて、上下水道一体での経営・運営を進め始めた都市である。それは、木曽川から伊勢湾まで、流域全体で水を考えるという姿勢の顕れでもあると考える。〝原点回帰〟とも言える参集での全国会議が実現する地が、おいしい水を110年近くの長きにわたり断水なく送り続けると同時に、市民を守るために雨に強いまちづくりに注力してきた名古屋であることは、必然である気がしてならない。
フォード・モーターの創設者、ヘンリー・フォードは「人が集まることは始まりであり、人が一緒にいることは前進であり、人が一緒に働くことは成功である」との名言を遺している。今回の全国会議が恒久的な水インフラの重要性を改めて認識し、かつ行動に移す機会となるよう、また、清浄にして豊富・低廉な水を供給し続ける技術・知見、そして経験とヒントを持ち寄る好機の場となるよう、大いに期待したい。