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社説 変化に対峙する覚悟を マイクリップに追加

2025/01/01 社説

 旧年ほどに水道への社会的関心が高まった年はなかったのではなかろうか。

 能登半島地震により生じた大規模断水、全国的に広がりを見せた水道料金の見直し議論、加えて有機フッ素化合物(PFAS)の問題は、国民に安全な水道の存在が当たり前ではないことを印象付け、水道のあり方を再考する国民意識が確実に醸成されてきた。

 同時に、日本の水道は昨年4月に所管省庁の移管という大きな転換点を迎えた。国土交通省の上下水道一体の行政組織のもと、環境省とも連携しながら、「市民目線」を旗印に、持続可能な日本の水道のあり方を再考していく姿勢が移行後、ひしひしと感じられた9カ月間であったと言えよう。

 緊迫した姿勢を最も象徴したのは国会対応である。水道への国民意識の高まりは、国会における膨大な量の関連質疑や議員レクとなって現れた。

 7月には岸田文雄首相自らが水道事業の現場を視察した。その後に展開される流域総合水管理、耐震化状況の全国緊急点検、デジタル行財政改革など、首相指示による水道改革も大きく動き出した。新たな行政組織は、民意を反映する政治の受け皿となり、政策の潤滑剤として機能することで、国政における水道のステータスは間違いなく高まっている。

 結果的に令和7年度政府予算案では、水道耐震化の補助に水道事業体の経営努力を加味する仕組みが盛り込まれ、法制度の見直し議論も動きだそうとしている。11月に国土交通省が設置した「上下水道政策の基本的なあり方検討会」の議論は、未来に向けた「市民目線」の上下水道の能動的な戦略づくりの場として注目される。近代水道が138年間築き上げてきた歴史と文化に敬意を払いつつ、水の安全保障を念頭に持続可能な上下水道インフラへとつなげる、変化を恐れない議論に期待したい。

 他方、産業界を取り巻く環境変化は、かつてないほどに厳しい局面を迎えている。物価高騰、エネルギー供給の不安定化、担い手不足はじめ、人口減少による水需要の先細りなど、今後の成長が期待できない状況下で各企業とも変化に対応するための経営戦略が喫緊の課題となっている。

 事業形態としての「官民連携」が定着し、企業が担う領域も徐々に広がりを見せている。エンジニアリング、メーカー、サービス提供のいずれの業種であっても、企業が有するノウハウや事業参画の考え方は変化を遂げている。相次ぐ企業の合従連衡や株式上場の動きは、まさにこうした変化に適応していく意識の高まりの象徴でもあり、今後も加速していくであろう。

 重ねて国が推進を図るウォーターPPPへの対応も企業の悩みの種である。社会の潮流であることは理解しつつも、国庫補助要件化が決まった工業用水道や下水道とは異なり、水道への対応の方向性は見通しづらい。一方、上下水道一体や「群マネ」とも称されるインフラ連携の考え方のもと、エネルギーや道路分野等の地域資源を最適化した「官民連携」によるビジネスモデルは確実に広がってきている。

 経済・社会環境の劇的な変化のもと、国、産業界の適応が進んでいく中で、水道事業の主役である水道事業体の現状はどうであろうか。

 今や規模を問わず水道事業体の業務負荷は増大している。特に多くの中小の水道事業体では、普及整備期とその後の不作為により生じた負債の蓄積を顧みながら、山積する課題に対峙している。健全経営に向けた自助努力を行政の水道部門に単純に求めることは、もはや酷だと言わざるを得ない。

 2025年の干支は「乙巳」(きのとみ)。変化を暗示する年と言われる。一回り前の乙巳、1965年は、その後の公営企業としての水道事業のあり方を制度化する上で重要な年であった。

 前年に国の主導で行われた公共料金抑制措置を受け、政府が諮問した地方公営企業制度調査会において、水道料金と経営のあり方に関する大議論が繰り広げられている。

 約300の水道事業体で料金の値上げ改定が行われ、地方公営企業制度調査会の答申では、今に至る「独立採算」の考え方が確立され、翌年の地方公営企業法の改正へとつながった。

 国、産業界がいかに変わろうともわが国における水道の芯は個々の水道事業体である。公営を原則とする日本の水道事業体の経営は、「独立採算」でこそあれ、首長、地方議会も含めた民意とは独立しない。であるならば変化への適応を水道事業体そのものだけに求めるのではなく、民意に裏付けられた地方自治に対してより求めていかなくてはならない。

 一方、地方自治のもとでの変化への適応が一足飛びには困難であることは想像に難くない。

 今後の水道事業体運営には、国、企業、そして市民とも対等な地方自治が求められよう。そのためには、正しく現状を伝えていくことこそが出発点になる。最も不可避の潮流であるデジタル化、DXも、透明性を持った基盤構築が本質である。その先に、今後さらに劇的な変化を遂げるであろう社会状況への適応が見えてくる。

 乙巳の一年。国と産業界が確かな変化を遂げる中で、水道事業の芯である水道事業体、そして地方自治が、必然たる変化に対峙していく機運が高まり、少しでも前に進んでいくことを期待したい。

 水道事業体、地方自治の進化の先に、世界に誇る日本の水道の持続がある。


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