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2021年1021日 (木) 版

社説 和歌山市水管橋崩落 マイクリップに追加

2021/10/21 社説

 10月3日に発生した和歌山市・六十谷水管橋の崩落事故。地震等の外力が無い中で水道施設が崩落する瞬間は、ショッキングな映像と相俟って水道関係者に大きな衝撃を与えた。計画論、施設設計等の専門性を持った課題認識が既に多くの水道関係者の心のうちにある。この惨事を二度と繰り返さぬよう、水道関係者が「わがこと」として捉えるべき論点を考えたい。

 平成24年12月、中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故を契機に社会インフラはいわゆる「メンテナンス時代」へと突入した。

 その中で日本の水道インフラは、阪神・淡路大震災以降に相次いだ地震被害を教訓とする施設の耐震化、近年は水害対策も含めた「強靱化」を図る中で施設更新を進め、インフラの老朽化という社会課題に向き合ってきた。

 そして施設の経年状態と投資のバランスの最適解を導き対策を打つ「アセットマネジメント」も技術、経営の両面から当然行われてきた。しかし現状では、高度経済成長期に整備され、急速に老朽化が進む膨大な資産量を前に、今ある施設を最大限活用した投資計画の策定が主眼となり、老朽化対策の本質となる財源、人材という課題の解決は、令和元年10月に施行された改正水道法で示された「基盤強化」という長期的な視野を持った取組みの中で道筋を立てざるを得ない状況にある。

 その最中で起こった和歌山市の事故は、貴い人命こそ失うことはなかったものの水道界においては笹子トンネル事故と同等のインパクトを持つ事象であり、改めて「メンテナンス時代」への熟考を促すものとなる。

改正水道法が鳴らした警鐘

 今後本格的な事故原因の究明が行われていくことに留意しつつも、崩落事故はランガー補剛形式の水道橋の吊材劣化が一因であるとの見方が示されている。その上で、水道関係者においては、施設全体の日常点検のあり方の再考こそが今回の惨事を「わがこと」とする大切な論点の一つとなろう。

 事故発生を受け、厚生労働省水道課は10月8日に水道法第22条の2に基づき、水管橋の維持および修繕を要請する事務連絡を全国の水道事業者に発出した。この水道法第22条の関連規定は、令和元年10月施行の改正水道法における重要改正項目の一つであった。

 22条では、水道事業者が水道施設を管理運営する上で措置すべき内容を定めている。改正では、適切な資産管理の推進に向けた、点検を含む施設の維持・修繕の義務付け(22条の2)、台帳整備の義務付け(22条の3)、計画的な施設更新を図るための収支見通しの作成・公表の努力義務(22条の4)が新たに盛り込まれた。

 これらの改正は一言で表せば、水道事業体のアセットマネジメントに不可欠な取組みを定めたものである。

 厚労省の要請に示された22条の2では「水道事業者は、厚生労働省令で定める基準に従い、水道施設を良好な状態に保つため、その維持及び修繕を行わなくてはならない」と規定する。そして改正法の施行に際して厚労省が策定した「水道施設の点検を含む維持・修繕の実施に関するガイドライン」では、水管橋の吊材を含む上部構造物も点検項目として挙げられている。また、過去の関連のマニュアル等においても同様の指摘がなされてきた。

 橋梁の吊材への監視の目が十分でなかったことは言い訳にできない。水道関係者は、これらの背景のもとで事故が起こった事実に向き合う必要がある。

資産管理、確かな技量で

 アセットマネジメントに不可欠な要素と言うべき、改正水道法で示された施設の点検・維持・修繕、施設台帳整備、収支見通しの作成・公表の3点のうち、施設台帳と収支見通しを示す経営戦略は、水道事業者自らがその不備を明確に自覚できよう。特に経営戦略については他事業体との比較も可能であり、利用者の目も入りやすい。

 では、施設の点検・維持・修繕、そしてその結果を反映させた施設管理の状況はどうだろうか。

 施設点検を行っていないという事業者はさすがに皆無であろうが、自らの点検内容が十分なのか、そしてその内容が適切な施設管理に生かされているかとなると、それぞれの事業者の取組みが客観性、妥当性を持ったものであるとは言い難い。しかし、事業者自らの技量のもとで確実に運用されなければならない領域である。

 改正水道法のもとで全国的に「基盤強化」に向けた取組みが進む。都道府県主導による広域連携、官民連携という事業の大枠を決めていく動きが注目されているが、大枠のみでは適切な資産管理は実現できない。

 また、維持管理手法におけるデジタル技術の活用にも注目が集まる。有効な技術の開発と普及が望まれるが、あくまでこれは手法の選択である。全国の状況を見渡すと、そもそもやるべきことへの再評価、そして適切な資産管理を履行できる体制構築の議論が優先される実態にある。

 水道施設のオーナーは利用者だ。オーナーから水道事業者は施設の運営を負託されている。こういった状況において、利用者においても、より厳しい目で自らの資産を負託する水道事業者の仕事ぶりを見ていくことが必要とならざるを得ない。オーナーからの負託に応えるため、水道事業者が確実に履行すべきことを適切に認識し、履行できる技量を持つことが基盤強化の前提である。

「わがこと」として策を

 水管橋の崩落からわずか1週間で隣接する県道橋への仮設配管を終え、断水を解消したことは、多くの水道関係者を驚かせた。

 資機材の調達と配管を迅速にやり遂げた地元企業とメーカーの力、断水の間も連日100台を超える給水車が駆けつけて応急給水を行った日本水道協会を軸とする水道事業体の連携、そして1級河川に架かる県道橋の長期封鎖という英断に踏み切った国、県、市の調整は素晴らしいものであったが、あくまで水管橋崩落という惨事のもとで起こった事象である。

 この惨事を繰り返さないためにどうするべきか。その計画立案、そして実効性を伴った取組みに傾注していくことがこれからの水道関係者の使命となる。

 和歌山市企業局そしてオーナーである水道利用者も今後の事故検証に当たり、水管橋の崩落、長期断水が招いた損失の大きさを一層実感していくこととなろう。事故の予防保全、日ごろの維持管理の大切さを基本に再発防止策に取り組んでいかねばならないが、事故対応の費用は独立採算の水道会計を圧迫させる。従来予定していた施設更新、バックアップ機能の整備などを後回しにせざるを得なくなる可能性があり、結果的に利用者が負担を背負わなければならない。

 アセットマネジメント、そして基盤強化の根幹は、施設の姿を知り、対策を打つ技量にある。水道事業者に確かな技量が備わっているか、足りない技量は何か、自らを知り「わがこと」として手を打たねば、日本の水道の基盤強化は成し遂げられない。

 規模の大小を問わず、水道を担う者のすべてが「わがこと」としての対策を積み重ねることで、和歌山市の水管橋崩落事故は水道メンテナンス時代への転換点となった出来事として、確かな記憶となってわれわれの脳裏に刻まれるのではないだろうか。


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