社説 「当たり前」の持続へ力を マイクリップに追加
新型コロナウイルスに翻弄された2年の時を乗り越え、今年こそ新たな社会貢献へのステップアップに水道界を挙げて繋げる一年としたい。
思い起こせば2019年12月、中国・武漢で初めて検出された新型コロナウイルスは瞬く間に世界中を席巻し、人々の自由と平穏を奪い去っていった。以降、この未知なる感染症との戦いの連続であったことは誰の目にも疑いはないが、一方でエッセンシャルサービスとして、皮肉にも水道の価値が再認識される機会にもなった。
水道事業はコロナ禍にあっても揺らぐことなく、蛇口を捻ればいつでも安全でおいしい飲料水を、また同時に手洗いやうがいの水を、24時間利用することができた。さまざまな制約のもとであっても、われわれが変わらぬ日常生活を送ることができたのは、清浄にして豊富低廉な水の安定供給を使命とする「人」の存在を抜きには語れない。ここに改めてすべての水道関係者、そしてその営みを支える人々に敬意を表したい。
明治期の日本では、コレラや赤痢など水系感染症の大流行が近代水道の創設に拍車をかけた。それ以来135年の歴史を歩み、人々の水に対する意識は「有難さ」から、あって「当たり前」に変わった。「当たり前」が過ぎ、「有難さ」への意識が遠のいてしまった。
反面、全国の漏水事故は年間2万件以上にも上る。その大きな要因となる、法定耐用年数40年を超える水道管は13万kmで、全管路延長72.1万kmに対して17.6%を占める。全国の管路更新率の平均は平成30年度時点で0.68%であり、急速な水道普及の途上にあった1970年代以降に整備した老朽管路が増嵩する中で、さらに更新延長を伸ばすことができなければ更新率の低下は不可避で泥沼に化する。
この事実を背景に多くの水道関係者が危機意識を募らせているが、危機と隣り合わせの事象が起きた。昨年10月に発生した和歌山市の水管橋崩落事故では、外力を伴わずに水道施設が不全に陥るという姿を多くの国民が目の当たりにすることとなってしまった。水道関係者の誰もが思うところは、いかなる理由があろうとこの惨事を繰り返してはならないという1点に尽きる。
この教訓を危機意識として共有していながら、その解決にスピード感を持って対応できる基盤に綻びが生じているのが水道事業の現状である。明日は我が身という思いを抱く事業体もある。これまでの延長が「当たり前」ではないことを肝に命じ、綻びが大きくなっていくことにぜひ歯止めを掛けていただきたい。
このまま手をこまねいているわけにはいかない。「ヒト」「モノ」「カネ」の経営3要素から照らし、水道基盤強化の基礎固めとして、ヒト=人材育成、モノ=技術革新、カネ=料金値上げ―にこれまで以上に注力してはどうだろうか。
人材育成においては、予防保全的インフラメンテナンスの理念が主流となってくる中で、現場に精通するスペシャリストが必須だ。成熟してきた事業環境だからこそ、若者の豊かな想像力、恐れを知らない好奇心、積極的な行動力が新たな思考をもたらす貴重な資源になり得るのではなかろうか。次世代を担う若者の積極的な登用を願いたい。そのためには労働環境の整備も官民一体で行うべきだ。コロナ禍により社会全般のデジタル化の機運が高まっている。デジタル化は目的ではなく手段であることは当然であるが、その目的に働き方の変化を見据えて取り組むことが一層重要となろう。
技術革新は、単なる長寿命化や耐震化といった単一視点のハード製品だけでなく、不断水工法の進化や漏水箇所を容易に発見可能とするシステムなど更新効率を向上させる技術、人口流動に対応した可搬式浄水装置などフレキシブル対応を可能とした設備、プラス脱炭素を目指した処理技術の低エネルギー化など、持続可能な地域社会へつなげる技術革新に挑みやすい土壌づくりが急務である。市場に魅力がなければ、産業構造が縮小していくのは自明の理だ。新技術を導入しやすい制度設計をはじめ、産業創造を導く環境をできるだけ早くに築くべきだ。
水道料金については、サービスの対価にふさわしい料金体系に再編しなければなるまい。政府の水道関係予算こそ一定程度確保される状況となってきたが、水道事業の財源は当然のように料金である。人口減少と相俟ってその回収率は徐々に下落してきており、水需要の減少による不安定な収益構造下にある。施設の長寿命化など経営改善を図ることは当然であるが、老朽化によってサービスの維持が難しいことが予測されるのであれば、後世との負担平準を謳う以上、今からサービス対価に見合った料金設定を真剣に検討すべきである。コロナ禍によって全国で起きた配水量と料金収入の変化も教訓にしなくてはならない。多くの事業体が逓増制を採る中で、あらゆる社会構造の変化に対応できる強靱な水道料金のあり方が望まれる。
エッセンシャルワーカーである水道関係者が都市活動の根底を支え続けていたからこそ、「当たり前」に恩恵を享受できていた。この環境を持続していくことの「難しさ」、蛇口を捻ればいつでも水が飲める「有難さ」を地域住民に発信していくことも必要であろう。オミクロン株による国内感染が確認され、油断なき日常はまだ続くが、ポストコロナへ基盤強化の着実な基礎作りへと繋げる2022年としたい。