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2022年915日 (木) 版

社説 水道行政の移管に思う マイクリップに追加

2022/09/15 社説

 長引くコロナ禍が、国の水道行政の位置付けにも影響を与えた。「感染症対策部」の設置など感染症対応能力強化に向けた厚生労働省の組織見直しにより、水道整備・管理の全般は国土交通省が、うち水道水質基準の策定等は環境省が所管する方向性が打ち出された。令和6年4月の移管を目指し、来年1月召集予定の次期通常国会に関連法案が提出される予定だ。厚生省の創設、厚労省への再編を経ながら、一貫して厚生行政・衛生行政の一部門として歩んできた水道行政が転換点に立った今、水道関係者は何を考え、何を為すべきであろうか。

 ■より安全・安心の観点から

 水道が厚生労働省、下水道が国土交通省、工業用水道が経済産業省の管轄となっている根拠は、今を遡ること65年前、昭和32年1月の閣議決定にある。その後、平成13年の各省再編を経て、水道課が厚生労働省に設置されて現在に至っている。

 これまで水道行政を担ってきた厚生労働省の組織見直しは、感染症対応能力強化が主眼ではあるが、政府では水道事業の経営基盤強化、老朽化や耐震化への対応、災害発生時における早急な復旧支援、渇水への対応等に対し、パフォーマンスの向上を図りつつ水道の安全・安心をより高めるものだとしている。基盤整備の時代から、それを強化・強靱化する時代に移ったことの証左と言えよう。

 このため、国土交通省が施設整備や下水道運営、災害対応力に関する能力・知見や層の厚い地方組織を活用し、水道整備・管理行政を一元的に担当するという。一方、環境省は専門的な能力・知見に基づき、水質基準の策定を行うほか、水質・衛生に係る業務に関して国土交通省の協議に応じて連携するなど、国民の水道に対する安全・安心をより高める役割を担うことが期待されている。

 ■課題と期待は不可分

 具体的には、多くの地方公共団体が上下水道を同一部署で所管している現状に鑑み、国交省では水管理・国土保全局において水道行政・下水道行政を一体運営する方向で検討が進むものとみられる。

 移管により、現在は厚生労働省にない実事業・工事関係業務が強化されることが想像できる。また、調査研究費等が増加する可能性もあろう。地方整備局との体制整備などで危機管理体制の強化も期待される。一方で、飲み水をつくる浄水処理と下水の浄化は、〝水をきれいにする〟という工程に親和性はあれども、技術面やシステムに違いがあることも事実である。何より国交・環境両省が「環境」の視点で水質を捉えてきた一方で、これまでの水質行政は「健康」への影響に重きを置いてきた。移管となった時、そのバランスがどうなるのか。これについては、厚労省がこれまで積み重ねた実績や経緯に鑑み、関連法を見直しながら3省で慎重に歩を進めていくことが肝要となるだろう。

 ■時代の転換点に

 水道普及率は98%に達し、国民生活になくてはならない重要インフラの一つとなっている。令和元年には改正水道法が施行、昨年には気候変動に対応して流域治水関連法も成立した。水全体を捉えた強靱な水インフラの整備が求められている今、水道行政の移管はこれから起ころうとする水行政改革の先駆けとなる可能性を大いに含んでいるとも言えよう。そして水道の始まりが水系伝染病対策に端を発したものと考えると、今が歴史の分水嶺、改革のとば口にあるといっても過言ではない。

 幕末維新の立役者の一人、勝海舟は「改革とは改革者自身がまず変わることさ」と述べた。先に述べたように整備・管理関係は国交省、水質関係は環境省の管轄となる公算が強い。二元化を避け、チェック機能が相互に働く適切な業務分担体制が築かれることを望みたい。

 忘れてはならないのは、関係者一人ひとりが安全・強靱・持続という水道の理想像を改めて念頭に置き、国民にとって最も重要なライフラインを守るために何をすべきか追究する信念を持ち続けること。それが成し遂げられれば、水行政改革の成否がおのずと見えてくるであろうか。


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