日本水道新聞 電子版

2023年615日 (木) 版 PDF版で読む 別の日付を表示
2023年615日 (木) 版

社説 「水道一家」の再構築へ マイクリップに追加

2023/06/15 社説

  ■国会審議を経て

 厚生労働省が所管する水道行政を国土交通省、環境省へ移管するための関係法「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律」が、5月19日に成立し、26日に公布された。水道行政移管は政府方針から決定事項となり、施行日となる令和6年4月1日へのカウントダウンが始まった。

 水道実務者における行政移管への関心は非常に高いが、不安、期待ともに漠然とした状況が依然として続く。総じて言えば、官には行政実務が変化することへの不安、民には市場活性化への期待という雰囲気が広がる。

 情報不足への懸念も耳にする一方、今般の移管準備に当たっての政府内の連携は緊密だ。各省間にせめぎ合いのある政策は、議論も活発となり情報が表出し易いが、国交省が中心となり、環境省、厚労省と協調して進む準備は、混乱を招くことの無いよう前向きな意味で情報管理が徹底されている。

 国交省本省には移管準備チーム、地方整備局等の支分部局には移管準備室が立ち上がり、組織を挙げて取り組む姿勢が全面に打ち出され、喫緊で対応が求められる災害時対応等の危機管理については積極的な対応が進む。組織体制と予算については8月末の令和6年度予算概算要求が情報を公表するタイミングとなり、政省令等についても必要な時期に必要な情報を着実に発信していくこととなる。

 水道実務者にとっては、受け身を余儀なくされる側面もあるが、この手堅さこそ移管後の水道行政の強固な姿の裏返しである。こうした状況からも国会における法案審議は、情報を引き出す場として貴重な機会となった。

 与野党双方、議員本人、そして各党水道政策の背景にある支持者や理念に立脚した質疑の中、実務者にとって知りたい情報を引き出し、今後の移管準備の論点を導くものとなった。

 国立保健医療科学院等の研究機関の処遇、環境省職員が主となっている水道技術人材と組織編成の問題、水道関係予算の「公共」としての取り扱い、資本単価要件の障壁など補助の執行に関する現場の課題、地方整備局と都道府県の関係性など多くの疑問がぶつけられた。明確な解に至らなくとも、質疑は内容を伴うものであり、課題認識は議事録として残った。

 再認識すべきは水道を生業とし、水道の便益のもとで暮らしている水道実務者の声こそが、貴重な国民の声であるということだ。公共事業および公益事業の特性として、携わる者の意識がサービス供給者の公の意識と、受益者の民の意識に分断される傾向がある。水道実務は公に近い仕事ゆえに、公と政治の距離に縛られがちだが、いかなる水道実務者も一市民であり紛れもなく民の側にいる。

 国会質疑は、民側に水道実務者の声が反映されたからこそ有意義なものとなった。水道と政治を遠ざけてはならない。公共性という前提のもと、常に民側に立ち政策に反映する意識を持った水道界を形成していくことが今こそ求められている。

  ■水道一家の連帯

 水道行政移管まで9カ月を切り、水道界にとって、これから年度末にかけての動きは、歴史の転換点であり、重要な局面を迎える。

 そうした中、日本水道協会の全国7地方支部の総会が7月4日の東北を皮切りにスタートする。各地域の水道事業者の声を集めながら、10月18日から東京で開かれる日水協全国会議にかけて、水道実務者の熱は佳境を迎え、行政移管という節目に向かっていく。

 日水協の役割は「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律」の審議においても一つの論点となった。

 政府からは、災害時対応における日水協との連携の重要性、水質基準策定における日水協発刊の「水道統計」の有用性などが示された。

 災害時における水道事業者間の連携の歴史は古い。今年で発災から100年の節目を迎えた関東大震災の際にも、旧東京市に事業体間の支援が展開された記録が残され、現代においては、日水協が中心とする災害支援の輪が日本の水を守る。水道統計は、100年余の日本の水道の定量的記録を刻む国際的にも希少な統計資料でもある。

 ライフラインに従事する誇り、国土の性質上避けられない災害時にお互いに助け合う連帯感、量と質の両面から飲み水を管理する技術と経営意識の高さゆえに重んじられてきた緻密な思考力。こうした水道界の連携と歴史的背景の中心に日水協が存在し、普及・整備拡張期を通じて全国各地で育まれてきた「水道一家」と称される水道を生業とする者の連帯意識が脈々と引き継がれてきた。

  ■価値の転換点

 6月2日、政府は「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」を公表し、官民連携による管理・更新一体マネジメント方式と既存のコンセッション方式の双方を指す「ウォーターPPP」の推進を打ち出した。令和13年度までに水道分野と下水道分野で各100件、工業用水道分野で25件の具体化を狙う目標値も示された。

 令和6年度政府予算編成の方向性を示す経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)においては、ウォーターPPPの推進、同時に水道・整備管理行政を下水道と一体で取り組むための体制構築が明記される見通しだ。政治主導のこうした動きに対して、水道界からしっかりと意思表示する枠組みが問われるだろう。

 エネルギー危機、気候変動という人類の持続にも関わる課題を前に、水道事業が2050年という明確な目標に向けて、脱炭素化との両立に取り組むためには、技術・経営双方における限られた時間内での発想の転換と革新が必須となる。

 人口減少と少子高齢化、極端化する気候変動、老朽化施設の増加など数多くの課題に直面する中で、今後来たる時代に適応していかねばならない。

 行政執行体制、官民の関係性、そして志向する価値は劇的に変化する。これによってもたらされる変容は、「水道一家」の再構築とも言うべきダイナミズムを伴うであろう。

 水道事業を未来へとつないでいく使命は、いつの時代でも論を俟たない。

 水道界の連携と歴史の中心的役割を果たしてきた日水協の旗印のもとに集い、一堂に顔を合わせる中で、これからの時代に望まれる「水道一家」を育て上げていこう。


この記事を見た人はこんな記事も見ています

社説の過去記事一覧

×
ようこそ、ゲストさん。
新規会員登録 ログイン 日本水道新聞 電子版について