社説 当たり前ではない「当たり前の水道」 マイクリップに追加
水道界にとって「波乱の1年」であった令和7年が終わり、令和8年がスタートした。
一昨年に発生した能登半島地震および奥能登豪雨が、復旧から復興のステージへと移る見通しが見え始めた最中の1月28日、埼玉県八潮市において、下水道管路の破損が原因とみられる過去最大級の道路陥没事故が発生した。水道においても、これを対岸の火事とさせないかのように、国が「急所」と位置付ける基幹管路で老朽化に起因する漏水等の事故が多発し、多くの住民が断水などの影響を被った。
こうした事故により、普段は目につくことのない管路が支えている「24時間、蛇口をひねれば水が出る」という状態が、決して「当たり前」ではないことが、国民に強く印象付けられた。普段は当たり前すぎて意識することの少なかった水道に、ようやく一筋の光が当たったと言えよう。
むろん、水道は水道事業体だけのものではない。水道施設の機能不全や管路の老朽化による断水事故は、5年前の和歌山市六十谷水管橋の事例に見られるように、突如として発生し、市民生活に直接的な影響を及ぼす。こうした認識は、かつてであれば断水の憂き目にあった当事者以外は問題にしなかったかもしれない。しかし、昨年に相次いだ管路事故を経て、老朽化を「生活リスク」として捉える市民は着実に増加している。また、一昨年の水道行政の国土交通省への移管を経て、上下水道一体の行政体制がスタートし、水道は下水道とともに、一体の「国民皆の財産」として行政の俎上に載せられることとなった。
そして昨年暮れの大臣折衝で、令和8年度予算における老朽化対策やリダンダンシー確保の個別補助創設が要求通り認められた。大口径管や社会的影響の大きい管路を対象とした更新、複線化、連絡管の整備などを後押しするメニューが充実しており、今後の事故リスク低減に向けた国の強い意志の表れと言えよう。水道の広域断水や大規模道路陥没といった、社会全体に深刻な影響を及ぼす事象を二度と繰り返さないためにも、国の支援メニューを積極的に活用し、国策である「上下水道の強靱化」を着実に進める必要がある。
一方で、水道事業の主役が水道事業体である以上、国の支援だけで課題が解決するわけではない。本質的な課題解決のためには、従来の市町村単位の視点にとどまらず、一定の地域単位で水道の将来像を議論し、中長期的な戦略を構築することが不可欠である。
その方向性は、国土交通省が設置した「上下水道政策の基本的なあり方検討会」が今月公表の第2次とりまとめにおいて明確に示される。
同案では、上下水道事業の持続性を確保するために必要な基盤強化策として、「複数自治体による一体的事業運営」と「集約型・分散型をベストミックスした施設の最適配置」を掲げている。
このうち、「複数自治体による一体的事業運営」の推進に当たっては、少なくとも10万人以上の給水人口規模の確保を目安として示している。これはあくまで目安ではあるものの、平時・災害時を問わず安定的な事業運営を行うために必要な技術力、人材、財政基盤を最低限確保するための、実践的な指標と受け止めるべきであろう。
また、「集約型・分散型をベストミックスした施設の最適配置」の議論は、広域化の検討と不可分であり、地域特性を踏まえつつ一体的に進める必要がある。
「広域化」と「施設のベストミックス」は、単なる「統合」や「縮小」を意味するものではない。各地域において、地理的・歴史的条件を踏まえ、複数の水道事業体が一堂に会し、広域的な施設再配置の将来像を見据えて議論を深める。その過程で真に必要となる「技術」「DX」「人材」「官民・広域連携」などを洗い出すことで、結果として「集中」と「分散」の最適な姿が見えてこよう。
今後の水道事業経営が平坦な道のりでないことは、想定される施設・管路更新費用の規模を見ても明らかである。この厳しさを水道事業体だけで抱え込めば、いずれ立ち行かなくなる。
水道施設・管路の更新費用を、単なる「負担増」として捉えるべきではない。老朽化した施設の更新を先送りすれば、将来発生し得る事故はより深刻化・大規模化するだけであり、そのツケを将来世代に押し付けることになる。こうした認識を、国全体で共有する必要がある。
更新費用が将来に向けた「安全・安心への投資」として正しく理解されるためにも、更新を先送りした場合のリスクや、広域化・ベストミックスによる効果を定量的に示していくことが、今後の水道行政に求められよう。
今年は、「第1次国土強靱化実施中期計画」の実行元年に当たる。未来の世代もわれわれと同じように水道を利用できるよう、国、水道事業体、産業界、市民がそれぞれの立場で水道強靱化への責任を果たすことが、「世界に冠たる日本の水道」を維持していくための道筋である。