社説 基盤強化への希望の光に マイクリップに追加
戦後80年を迎えた広島の地で10月29~31日の3日間、令和7年度日本水道協会全国会議と2025広島水道展が開かれる。
今年は上下水道管路の老朽化に伴う事故が多発。市民生活に多大な影響を及ぼし、社会の高い関心を呼んだ。高度経済成長期を中心に整備された管路が耐用年数を超える一方、そのリスクは潜在的なものとなっていたが、これが一気に顕在化してきた。持続可能な水道インフラの実現に向け、更新事業を軸としたシステムの再構築への転換期を迎えている。
全国会議では「強靱で持続可能な水道システムの構築 ~水道カルテから考える水道の基盤強化~」をテーマに、耐震化のみならず、住民の水道への理解醸成に向けた機運を高めるべく、国土交通省・水道事業体・日水協によるシンポジウムが開催される。水道展も「基盤強化で構築する 水道事業の確かな未来」をテーマに掲げ、過去最大級の155者が出展する。
今回の全国会議は、時代の転換点に全国の水道人が携わる集いともなる。自然災害の頻発化、人口減少、施設の老朽化という重層的課題に直面する中で、社会を支える水道の使命を改めて見つめ直し、未来への糧を共有する場として臨む必要があろう。
広島市は、昭和20年8月6日、原子爆弾の惨禍に見舞われながらも、「断水することなく水を送り続けた」不断水の精神が息づくまちである。
被爆当日、火傷の痛みに耐え、牛田水源地に駆けつけた職員がポンプを修繕し、被爆した人々に水を送り続けたエピソードは、「不断水の歴史」として広島市水道局が受け継いできた。
その精神は、全国会議の開催理念にも通じよう。どのような困難の中でも供給を絶やさないことは水道事業の根幹であり、この理念を今後も維持していくことを大命題として、関係者が知恵と心を合わせ、広島の地で議論を交わす必要がある。
能登半島地震では、広域での断水が長期化し、施設の耐震化・更新の遅れが地域の生活を直撃した。その一方で、復旧の現場に駆けつけたのは、ほかならぬ全国の水道人たちである。日水協を中心とする相互応援体制のもと、「必ず水を届ける」という共通の信念が、被災地の人々の生活と心を支えた。だが同時に、担い手不足や災害対応装備・物資の偏在といった新たな脆弱性も露呈した。
今年6月、国全体の羅針盤として「第1次国土強靱化実施中期計画」が閣議決定された。同計画を踏まえ、国土交通省は令和8年度予算概算要求において、事故発生時に重要施設での断水を引き起こす大口径管や緊急輸送道路・重要物流道路などの直下に布設された管路の更新を新たな支援メニューとして盛り込んだ。日水協の「地震等緊急時対応の手引き」が今年3月に改訂されるなど、関係団体による体制構築も進む。この案内路に沿い、DXや広域連携、ウォーターPPPの推進等を加速材料として、基盤を再構築するチャレンジに水道界を挙げて取り組む時が来た。
だが、基盤強化は、制度や技術のみでは成し遂げられない。資産維持のための財政、人材確保、そして市民の理解―三位一体の支えがあってこそ、水道の真の持続性が確立される。
今回のシンポジウムでクローズアップされる「水道カルテ」では、各事業体の経営状況や耐震化への取組み状況が可視化された。地域の実情を踏まえ、水道のユーザーたる市民とともに水道の課題を自分事化して共有することは、遅かれ早かれ避けては通れない。
会期中は、日水協と日本水道工業団体連合会の共催で「体験型水道イベント」が設けられる。「蛇口の奥を見てみよう」のテーマのもと、水道の本質に子どもから大人まで触れることができる催しだ。
こうした市民参加型の試みは一過性であってはならず、市民との触れ合い経験をノウハウとし、水道の将来を支える「理解と共感」を育む場として、根気強く輪を広げていく必要がある。
水道は、市民の生活に最も密着した公共インフラだからこそ、その価値は往々にして〝あって当たり前〟のものとして軽視されがちだ。特に、水道人は日頃の業務に対して高き誇りと矜持を持つがゆえに、自らの仕事を水道界の外に発信する術をあまり議論してこなかった。
だが、施設・管路の老朽化が顕在化した一方で、「ヒト・モノ・カネ」の三重苦がますます厳しくなってきている。「更新したくても人も金もない」「技術を残したくても継承のノウハウがない」「広域化やDXといった新手法を導入したくとも日々の実務に忙殺されている」といった声が強まる中、ブレークスルーが必要だ。
更新投資の必要性や耐震化の意義を丁寧に市民に説明し、持続可能な料金体系のあり方も含めて市民と共有することこそが、基盤強化へのブレークスルーとなろう。
その道は決して容易ではないものの、避けて通ることは持続可能な水道インフラの実現から遠のくことを意味する。
水道事業が今後も災害に強く、環境に優しく、地域に開かれたインフラであり続けること、そしてそのことをより多くの人々に知ってもらうこと、今回の全国会議と広島水道展が、その理想を具体的な形にする一歩となってほしい。そして、平和の水都・広島での議論が、全国の水道界を照らす希望の光となることを期待したい。