日本水道新聞 電子版

2024年11日 (月) 版 PDF版で読む 別の日付を表示
2024年11日 (月) 版

社説 高い視座、広い視野への進化 マイクリップに追加

2024/01/01 社説

 ■底流は不変なれども

 水道史に深く刻まれる辰年が始まりを告げた。

 令和6年4月、国の水道行政は、ついに厚生労働省から国土交通省と環境省に移管される。体制だけではなく、制度も変わる。至極当然ながら、水道は、法のもとで社会資本と位置づけられ、災害復旧に対する国の財政措置は法律補助となる。

 ウォーターPPPの動きは、賛否両論の中、官と民のあり方に大きな一石を投じている。水道界の水面下の動きに触れる限り、官民それぞれの現場の意識は確実に変化していくだろう。

 昨年来、各地でPFAS(有機フッ素化合物)の検出が続く中、水道界の課題であるリスクコミュニケーションも大きな分岐点を迎える。国、地方が一体となって、水道への信頼を高める努力が不可欠である。

 公衆衛生の大義、独立採算を原則とする水道の魂ともいうべきさまざまな底流を基礎としつつも、こうした変化は、水道事業を大きく変えていくには十分なダイナミズムとなり得る。

 水道関係者が、今後直面するさらなる変化に対して、PDCAサイクルをいかに実行していくのか、重大な局面を迎えている。

 ■人材確保とコスト上昇

 政府が11月に公表した、総合経済対策では、構造的な賃上げと、デジタル化、脱炭素を通じた社会変革の必要性が強調されている。まずは、これをわがごととして捉え、行動していくことが規範となる。

 賃上げに産業界として対応できなかった帰結は、担い手の先細りとなって現れることは明白である。これまでの官民連携では、VFM(バリュー・フォー・マネー)が重視されてきた。水道法に掲げる「低廉」という目的のもと、最良のサービスを最小のコストで提供していく努力は絶えず求められるが、持続可能な官と民のあり方が前提であり、あるべき姿である。

 昨今、動力費、物価高、そして人件費の高騰のもとで、全国の水道事業の経営は限界点に達している。その上で、官民連携に過大なVFMを期待することでもたらされる産業界の姿を水道事業体は慎重に捉えなければならない。

 ウォーターPPPという流れは、担い手が減りゆく中で、民が官を選ぶ時代への呼び水となりかねない。実態として民の労働力に依存する官側がその危機感を自覚し、官民連携の考え方を国と一体で見直す契機として、確かな経営基盤を構築することが水道の持続に向けた新たな一歩となる。

 一方、水道料金の意思決定を握る首長や地方議員の選任に民意が左右する以上、水道法に明記される「適正な原価に照らし、健全な経営を確保する」ことに行政が挑むハードルは極めて高いといわざるを得ない。

 そうした中でも、多くの事業体が値上げを英断し、各地で料金検討の議論が動き出している。単独では難しいことも、世の流れがうねりとなれば、変化は必然となる。

 ■合理的なシナジー

 働き方にも大きな変化がもたらされる。2024年問題と称される、建設業、物流業に対する時間外労働の上限規制の適用がいよいよ始まる。

 国がDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の狙いとしてきた「生産性の向上」に対峙する時がきた。水道用資機材メーカーをはじめとする水道を成すサプライチェーン全体に配慮しながら、合理化に努めなければ、水道の担い手は一層先細りすることを肝に銘じなければならない。

 水道界が着実に取り組む脱炭素については、社会的な機運との連動が一層求められる。上下水道一体の国の行政体制は、脱炭素においてもその合理性を追求していくことになる。

 激甚化、頻発化する豪雨災害という国難に臨むべく、国交省は「流域治水」を標榜し、防災政策は進化を遂げつつある。国を挙げて挑む2050年カーボンニュートラルという目標に対しても、上下水道、加えて水利行政が「流域」で挑むシナジー効果は大きい。地方整備局の河川部で水道と下水道をともに所掌することが明らかとなり、流域単位の取組みの現実性は一層高まりを見せる。

 今後も引き続き重点施策として進められる国土強靱化も同様である。他分野と密に連携しながらシナジー効果をいかに発揮していくかが問われる。

 脱炭素、強靱化をはじめ、国の重点施策を社会全体の領域で捉え直すことが、水道界の進化へとつながり、国民の利益となる。

 ■成長と変化を誘う年

 国において「上下水道」が一つの柱を成し、社会における存在感が乗数的に大きくならなくては意味がない。

 個々の取組みでは現状突破が困難であっても、社会、世論の潮流を作り、その流れに乗って、あらゆる主体と手を携えながら挑めば光明が差し込んでいく。今後、事業の実働の中で創出される変化は、われわれの想定を超えていく可能性を内在している。

 水道界は、必然を持って激動の一年へと進む。成長と変化を誘うとされる「甲辰」の干支の巡りのもと、人々の体内に入る唯一無二の公共インフラである使命と矜持を芯に水道に携わる一人ひとりが、より高い視座、より広い視野で、考え、行動し、つながっていけば、「明るい未来の水道」が必ずや拓かれよう。


この記事を見た人はこんな記事も見ています

社説の過去記事一覧

×
ようこそ、ゲストさん。
新規会員登録 ログイン 日本水道新聞 電子版について